M5StackGrayで2つのレーザー距離センサの同時接続テスト

2021.7.14 Coskx Lab  

1 はじめに

M5Stack Grayにレーザー距離センサVL53L1X(STMicroelectronics)を2つ接続して周囲の対象物までの距離を測定します。

VL53L1Xは,赤外線レーザにより4m程度までの距離を測定することができ,M5StackにはI2Cでデータを転送します。
VL53L1XはESP32とI2C通信で測距値を送っています。I2Cでは同一空間に同じI2Cアドレスの機器をおくことができません。
VL53L1Xを複数使用するとき,何もしなければすべて同じI2Cアドレスを持っていて,そのままでは複数のVL53L1XをM5Stackに接続することはできません。
VL53L1Xは起動後電源が切れるまでの間,一時的にI2Cアドレスを変更することができます。
その仕組みを利用して,2つのVL53L1XをM5Stackに接続します。
VL53L1Xを基板上に取り付けた製品は多数ありますが,ここでは秋月電子で販売されているAE-VL53L1Xを使用します。

2 使用環境

3 接続

図のように2つのAE-VL53L1XをM5Stackに接続します。2つのAE-VL53L1XのSDAとSCLはそれぞれ同じところに接続します。
XSHUTはあらかじめ決めておいたGPIOに接続します。AE-VL53L1XのGPIOはAE-VL53L1X内部でプルアップされているので何もつながないことにします。

構想段階で1台目センサのXSHUTはGPIO26,2台目のセンサのXSHUTはGPIO19につなぐと決めておきます。
今後,配線においてもプログラムにおいても矛盾がないようにします。


名称機能配線色M5Stack配線先
V+3.3~5V 入力3.3V
GNDGNDGND
SDAデータ線SDA (21)
SCLクロック線SCL (22)
XSHUTシャットダウン入力端子M5StackGPIOピンへ
GPIOGPIO(2.8Vレベル)接続しない



注意1 モータなどのノイズ発生機器と同時にレーザ距離センサを使う場合,使用していないGPIO(紫)のケーブルは,コネクタから外してください。ノイズの影響でレーザ距離センサが誤動作する場合があります。

注意2 AE-VL53L1XのV+には「3.3~5V 入力」と書いてありますが,これは3.3Vのシステムでも5Vのシステムでも使えますということを表しています。
AE-VL53L1Xはよくできていて,AE-VL53L1Xの電源に3.3Vを与えると3.3VでI2C通信し,5Vを与えると5VでI2C通信します。
M5Stackで使うとき,M5Stackの信号レベルは3.3Vであるため,3.3Vで通信したいのでAE-VL53L1Xの電源には3.3Vを与えます。
信号レベルが5Vのマイコンにつなげるときは,5Vで通信したいので5Vを与えます。


参考 M5Stackの裏側に書いてあるピンの名称

SDAとGPIO21,SCLとGPIO22はそれぞれ内部で接続されています。
注意 SDA,SCLはI2C用に用途の定まったピンなので,他のピンを利用することはできません。


実際の様子 配線が処理されていないので汚いです。

4 準備

VL53L1XはI2CでCPUとデータをやり取りしますが,そのためのライブラリが必要です。
Arduino IDEにて,「ツール」メニューから,「ライブラリを管理」を選び,「ライブラリマネージャ」を開きます。
上部にある「タイプ すべて」,「トピック すべて」の右側の長いボックスが検索欄なので,
そこに「VL53L1X」と書き込むと検索されます。複数の「VL53L1X」が見つかりますが,
「by PoLolu」と書いてあるものを選んでインストールします。

5 テストプログラム

https://github.com/pololu/vl53l1x-arduino
https://www.arduino.cc/reference/en/libraries/vl53l1x/
https://klab.hateblo.jp/entry/2021/04/18/094705
を参考にさせていただきました。

2つのVL53L1Xを同時に使いますが,defaultでは2つとも同じI2Cアドレス0x29を持っています。
アドレスの競合を避けるために,2台目センサのアドレスを0x2bに変更します。

VL53L1XにはXSHUTという端子があり,これをLにするとそのVL53L1Xは無効になります。
この仕組みを利用して1台目センサを無効にしておいて,そのすきに2台目センサと通信してI2Cアドレスを変更します。

ここで,VL53L1XのXSHUTは2.8V信号で,2.8Vでプルアップされているため,XSHUTラインのGPIO19,GPIO26はOpenDrain設定にしておく必要があります。

失敗の経験から
2台目センサは無効にする必要がないので,XSHUTは放置しておいたのですが,M5Stackをリセットしても,2台目センサへの電源供給は止まらないので,センサは変更されたI2Cアドレスを持ち続けています。
プログラム側は,そのことがわからないため,I2Cアドレスを変更しようとして,再起動のときに失敗します。
2台目センサも一度無効にすることで,以前設定したI2Cアドレスを忘れてくれるので,その後の設定がうまくいきます。

  動作確認用プログラム本体

//DistanceSenSor_DualVL53l1xTest01.ino//

#include <M5Stack.h>
#include <Wire.h>
#include <VL53L1X.h>

//https://www.arduino.cc/reference/en/libraries/vl53l1x/
//https://klab.hateblo.jp/entry/2021/04/18/094705
//2つのVL53L1Xを同時に使いますが,defaultでは2つとも同じI2Cアドレス0x29を持っています。
//アドレスの競合を避けるために,2台目センサのアドレスを0x2bに変更します。
//VL53L1XにはXSHUTという端子があり,これをLにするとそのVL53L1Xは無効になります。
//この仕組みを利用して1台目センサを無効にしておいて,そのすきに2台目センサと通信してI2Cアドレスを変更します。
//GPIO26を1台目センサのXSHUTに,GPIO19を2台目センサのXSHUTに接続しておきます。
//
//2台のセンサのXSHUTをLにすると,センサは停止状態=初期状態になります。(以前設定されていたI2Cアドレスも消去されます)
//1台目センサのXSHUTをLに保ったまま2台目センサのXSHUTをHにすると,defaultアドレスで有効なのは2台目センサだけになります
//この状況で2台目センサのアドレス変更作業を行います。
//作業が終わったら,1台目センサのXSHUTおHに戻して1台目センサを復活させます。
//ここで,VL53L1XのXSHUTは2.8V信号で,2.8Vでプルアップされているため,XSHUTがつながっているGPIO26,19はOpenDrain設定にしておく必要があります。

//SingleMode   (not ContinuousMode)
//必要なときに1回だけ測距

VL53L1X sensor1;
VL53L1X sensor2;

int measurementstatus1 = 0; //0:何もしていない 1:リクエスト中
int measurementstatus2 = 0; //0:何もしていない 1:リクエスト中

const int SDApin = 21; //SDAピン番号
const int SCLpin = 22; //SCLピン番号

const int XSHUTofSensor1pin = 26; //1台目センサのXSHUTのピン番号
const int XSHUTofSensor2pin = 19; //2台目センサのXSHUTのピン番号
const uint8_t Sensor2I2Caddress = 0x2b; //変更後の2台目センサのI2Cアドレス

void setup()
{
  //int sensor2_I2Cready; //0:not ready 1:ready
  M5.begin();
  M5.Power.begin();
  M5.Lcd.setTextSize(2); //高さ16 26文字/行

  pinMode(XSHUTofSensor1pin, OUTPUT_OPEN_DRAIN);//オープンドレイン設定
  pinMode(XSHUTofSensor2pin, OUTPUT_OPEN_DRAIN);//オープンドレイン設定
  digitalWrite(XSHUTofSensor1pin, LOW); //1台目センサを無効状態にする
  digitalWrite(XSHUTofSensor2pin, LOW); //2台目センサを無効状態にする
  delay(100); //無効状態=初期化を確実にする

  Wire.begin(SDApin,SCLpin); //ここをGray用に設定しないと通信に失敗する
  Wire.setClock(400000); // use 400 kHz I2C

  //I2Cアドレス使用状況の検証
  /*
  M5.Lcd.setCursor(0, 110);
  int address, error;
  for (address = 1; address<255; address++) {
    Wire.beginTransmission(address);
    error = Wire.endTransmission();
    if(error==0){
      M5.Lcd.print(address,HEX);M5.Lcd.print(" ");
    }
    delay(10);
    // 10 68 75 90 E8 F5
  }
  */

  digitalWrite(XSHUTofSensor2pin, HIGH); //2台目センサを有効状態に戻す
  sensor2.setTimeout(500); //[msec]
  if (!sensor2.init())
  {
    M5.Lcd.println("Failed to detect and initialize sensor2!");
    while (1);
  }
  sensor2.setAddress((uint8_t)Sensor2I2Caddress); //2台目センサーのアドレス変更
  //delay(100);

  digitalWrite(XSHUTofSensor1pin, HIGH); //1台目センサを有効状態に戻す
  //delay(100);

  if (!sensor1.init())
  {
    M5.Lcd.println("Failed to detect and initialize sensor1!");
    while (1);
  }

  //I2Cアドレス使用状況の検証
  /*
  M5.Lcd.println();
  for (address = 1; address<255; address++) {
    Wire.beginTransmission(address);
    error = Wire.endTransmission();
    if(error==0){
      M5.Lcd.print(address,HEX);M5.Lcd.print(" ");
    }
    delay(10);
    // 成功時 10 29 2B 68 75 90 A9 AB E8 F5
    // 成功時には,29 2B が増える 同時にA9 ABも増える
    // 2台目のアドレスを2Dに設定すると 29 2DとA9 ADが増える
  }
  */

  sensor1.setDistanceMode(VL53L1X::Long);
  sensor2.setDistanceMode(VL53L1X::Long);
  sensor1.setMeasurementTimingBudget(50000); //測定タイミングバジェット(1回の距離測定)に許容される時間[micros]
  sensor2.setMeasurementTimingBudget(50000); //測定タイミングバジェット(1回の距離測定)に許容される時間[micros]
  M5.Lcd.setCursor(0, 0);
  M5.Lcd.println("Dual VL53L1X Started");
}


void loop()
{
  if (measurementstatus1 == 0) {
    sensor1.readSingle(false); //start the measurement
    measurementstatus1 = 1;
  } else if (sensor1.timeoutOccurred()) {
    M5.Lcd.setCursor(0, 30);
    M5.Lcd.print("Sensor1 TIMEOUT         ");
    measurementstatus1 = 0;
  } else if (measurementstatus1 == 1) {
    if (sensor1.dataReady()){ //センサデータ取得完了だったら
      measurementstatus1 = 0;
      int result = 0;
      result = sensor1.read(false);
      M5.Lcd.setCursor(0, 30);
      M5.Lcd.print("                        ");
      M5.Lcd.setCursor(0, 30);
      M5.Lcd.printf("status: %s\n",VL53L1X::rangeStatusToString(sensor1.ranging_data.range_status));
      M5.Lcd.printf("S2 result[mm]:%5d  \n",result);
    }
  }
  if (measurementstatus2 == 0) {
    sensor2.readSingle(false); //start the measurement
    measurementstatus2 = 1;
  } else if (sensor1.timeoutOccurred()) {
      M5.Lcd.setCursor(0, 70);
      M5.Lcd.print("Sensor2 TIMEOUT         ");
      measurementstatus2 = 0;
  } else if (measurementstatus2 == 1) {
    if (sensor2.dataReady()){ //センサデータ取得完了だったら
      measurementstatus2 = 0;
      int result = 0;
      result = sensor2.read(false);
      M5.Lcd.setCursor(0, 70);
      M5.Lcd.print("                        ");
      M5.Lcd.setCursor(0, 70);
      M5.Lcd.printf("status: %s\n",VL53L1X::rangeStatusToString(sensor2.ranging_data.range_status));
      M5.Lcd.printf("S1 result[mm]:%5d  \n",result);
    }
  }
}

6 トラブルシューティング

動作が不安定,時折初期化を失敗するとき,モータを含むシステムで使って誤動作するとき
(1)センサケーブルが細くて耐ノイズ性に問題があります。ケーブルはきれいに束ねない方がよいようです。
(2)使用していないセンサのケーブル(例えばGPIOの紫ケーブル)はノイズの原因になりますので取り外した方が良いでしょう。(下の画像は紫ケーブルを外したところ。細いピンなどで詰めを持ち上げれば簡単に外れます。)
(3)XSHUTを使っている場合,センサ内部でプルアップされているので,マイコン側はオープンドレインに設定するのがセオリですが,ノイズに弱くなるので,単なる出力設定にすると改善されることがあります。
pinMode(〇〇〇〇, OUTPUT_OPEN_DRAIN);
ではなく
pinMode(〇〇〇〇, OUTPUT);



7 まとめ

2つのレーザ距離センサVL53L1Xが同時に動作していることを確認できました。ただしGPIOピンを最初に一回使うだけなのに2本占有してしまいました。